一度ホタテの焼く面はどちら側が合っているのか聞いてきたソロキャンパーが来た。
「そんなのどっちで焼くとか決まりがあるんですか?」
もうフタが開いてしまっているホタテをどっち面で焼こうが味に何の変わりもないだろう。
それに何でホタテ側の都合に合わせるんだ?
食べる側の選択であって、醤油や汁がこぼれない便利な方を下にすればいい。
ホタテは完全に死んでいる。
「いや〜閉じていた貝が開く形の方がいいのではないかと思いまして…」
「それなら大きめの貝が下ではないでしょうか」
「やっぱりそうですか?」
先ほども思ったが、もう貝は開いているんだし、どっちで焼こうが同じだ。
そして何よりも身は下の貝殻にくっついているではないか。
当然身がくっついている方が下だ。
この時は突然の質問でそこまで考えが及ばなかった。
「きっとそうですよ、いや、絶対そうです。」
もう面倒になったので断定的にこう言っておいた。
「そうですか、いやいや、ありがとうございます。」
そう言って男はここから段差が二つ下にある自分のテントに帰って行った。
ホタテウマそうだな…。
思えば、貝って身を守るようにあの固い殻の中に閉じこもっているようだが、人間からしてみれば具合のいい皿になってしまっているのだな。
バター、醤油、ポン酢とか垂らされて、高温の網の上に置かれてグツグツと。
牡蠣にいたっては滑り台のようにのどに流し込む形だ。
おまけに養殖されて彼ら的にはすごい繁栄しているようで、実は人間にレモン汁と一緒にひたすら食べられている。
でも人間に気に入られる事こそが種族を残す方法でもあるのか。
食べられてるというふうに下に物事を見るとか、損得で考えるのは随分了見の狭い考え方なんだろう。
いずれにしても己の種を残す事の意味をあまり生き物が考えてはいけないのかも知れない。
そんなとりとめもない事を思っていたら、グツグツと下から音が聞こえてきた。

カレーも2時間くらい煮込んでいたので、コクも良く出てうまくいった。

今日は盛大にキャンプを楽しむつもりだったので、たき火にも火を入れた。
この薪はホームセンターで650円するものです。
夜はさすがに少し冷えてきたので、たまに手をかざしにいくと体温が復活した。
たき火を見ながらご飯も炊いてカレーを食べていると、隣のバイクメンが帰ってきた。
軽い挨拶をすると、テントに入って前室で何かシュコシュコと音を出してやりだした。
ゴーっと言う音ともにバーナーが勢いよく吹き上がる。
あれは、ネットでしか見た事のないガソリンバーナー!
結構、値も張るし扱いも難しいからキャンパーの間では少しランク上と位置づけられる。
しかし彼のガソリンバーナーのボンベは普通のより無意味に大きくて長かった。
これは相当荷物的にかさばる。
だから初め「おお!すげーあれはガソリンバーナー!」と思ったけど、無駄に大きいボンベとビショビショのテントが視界に入ると要領の悪さがまた見えて少し残念な気持ちになった。
しばらくすると何かを食べる音が聞こえてきた。
何を買ってきて何を食べたのかはわからない。
僕はカレーを食べ終えて、ビールを飲んでいた。
そのうちボソボソっとバイクメンから話しかけられ、何度か会話をしているうちに緊張もほぐれて、テント越しにずっと話す事になった。
この人は仮にKさんとしておく。
年齢は50。
今回Kさんは埼玉から苫小牧までフェリーで来て、バイクで宗谷岬を目指したと言う。
上は雨だったのに何で下にいかなかったんですか?と聞くと、まだ20代だった頃北海道をグルグル走って、その時感動した道をまた辿ろうとしたらしい。
あの時の青春を取り戻そうとした。
と悦に浸っていたので
「それは取り戻せなかったでしょ〜」
と親切心から線路の方向をレバーで変えておいた。
「ええ、そうですね、、」
「ああいうのは一度きりなんですよね」
「大体、雨が降っていたし、、」

「たき火に当っていいですか?」
「ええ、どうぞ」
その後タバコを貰ってプカプカ吸いながら昔話を聞かせてもらった。
聞いていると先ほどの要領悪さの判断から若干、下に見ていたが、全然そんな事はなく、しっかりとした子供が二人もいる大人だった。
話すうちに印象が変わってきたのです。
続きます。
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