一度、若い頃奥さんと北海道まで来てキャンプをしたが、奥さんさんはそれ以来絶対一緒に行ってくれないと言う。
中標津の開陽台というキャンプ場での出来事らしいが、きっとアウトドアを嫌いになる何かがあったんだろう。
そして驚いた事に、今迄子供達ともキャンプをした事が無いそうだ。
「理由は何かあったんですか?」
「いや〜、特に何も無かったと思うんですけどね〜、、」
キャンプが好きなのに家族で一度も行った事がない。
誘った事もないと聞いてさらに驚いた。
何か所々ネジの締め付けが悪い人のように思える。
Kさんは昔この羅臼の野営場には何度か来た事がある。
ここは全国の、そう北海道だけでなく、日本全国のライダーにとって聖地だという。
「ここは何と言っても聖地だからね〜」
昔は無料だったし、今僕たちがテントを張っている場所は一番いい場所で、地元の人が長期滞在で占拠していたそうだ。
さらに今みたいに区画で仕切られていないので所狭しとライダーのテントで埋まってしまう。
「夜は炊事場でカラオケ大会が宿泊者全員で毎夜繰り返されていましたよ」
「へ〜、それは普通のキャンパーにして見れば厄介ですね〜」
「でも、楽しかったな〜」
「そうでしょうね、まるで山賊の宴みたいですね」
「そうそう、、色んな酒や食材がタダで回ってきた」
今は静かだが、遠くで明かりが灯っている炊事場を見て、ひげ面の汚い男達がどんちゃん騒ぎしている光景が何となく見えた。
きっとそんな事してるから町で管理されて有料になってしまったんだろう。
「ここで知り会った男が去年死んだんだよ」
「…、それはお気の毒に…」
「わざわざ葬式に行きましたよ、静岡まで…、、」
ここで騒いでいた20代の若者は無限の未来を手にしていた。
彼はKさんの記憶となり、僕に炊事場でマイクを握る姿を想像させた。
あまり考えると今夜出てきたら困るので、すぐにそっち方面の思考をストップした。
これは本気で気をつけないと、、。
「風呂はどうします?」
「ああ、僕、初めてなんで行き方がわからないんですよ」
そう僕のもっとも核にある目的はここの熊の湯に入る事だ。
と言っても無料の露天風呂なので、どうやって行っていいものか困っていた。
「じゃあ、一緒に行きましょう」
「助かります」
「地元の人が入ってくると結構ルールにうるさいんでもう少したったら行きましょう」
「ああ、そうなんですか」
「羅臼の漁師の方達なんで怖いですよ」
「ああ、それは厄介ですね、じゃあ行く時言って下さい」
「…、安心してください、僕はホモでないんで」
「あはは、もちろん僕も違うんで、、」
「……」
「……」
不思議な事に、あえて言われると逆に可能性がゼロでなくなる。
改めて、ここは何にも管理されていないキャンプ場であり、漆黒の夜なのだ。
しばらくしてKさんから声がかかったので、テントに入りバスタオルとタオルだけ持って出る。
もちろん、テントは留守になるので貴重品類が心配だ。
基本的にキャンパーで人のテントに忍び寄る人はいないと思う。
普通の感覚ならば他人のテントの近くに行くだけでも結構勇気がいる。
でも昼間駐車場で見た汚い長期滞在者を思い出した。
アイツがコソコソこちらを監視しているかもしれない。
財布は車にあるので大丈夫だとして、一応iPhoneだけは風呂場まで持って行こう。
「ここらへんのキツネはテントを破ってでも食料もっていくらしいですよ」
「ええ〜、テントを破ってですか!」
「実際には破れないんだけど、引っ掻いてわずかな隙間でも見逃さないよ」
「ワイルドですね〜」
それを聞いて、食料はテントに入れてチャックを閉めておいた。
カレーもまだコッヘルに残っていたのでビニール袋に入れて固く結んでおいた。
どっちが北海道の人なんだか、、この人がいて色々と助かった。
続きます。
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