3日目の朝。
少し寒い。
起きてからテント内の前室でお湯を湧かしてコーヒーを飲む。
昨晩温泉で温まった体から熱は完全に無くなっていた。
しばらくしてノロノロと動きだし外に出る。
何時だったか忘れたけど、かなり早朝だったのか、まだ起きている人はいなかった。
昨晩余ったカレーを再び加熱して食べる。
玉ねぎに人参、ジャガイモ、豚肉などは熱で溶けて無くなっていた。
ナスだけかろうじて原型を保っていた。
カレーを食べ終わると隣のKさんも起きてきた。
「おはようございます」
「おはようございます」
「よく寝れました?」
「ええ、本当に温泉のおかげで寒くなかったです」
「ははは、そうでしょうね」
「朝も行きます?」
「もちろん行きますよ」
「ではまたもう少ししたら行きましょう」
「ええ」
早朝はまだ木々からでる水蒸気で湿気に帯びていた。
鼻から湿った新鮮な空気が入ってくる。
まるで木そのものを吸い込んでいるようだ。
昨晩と同じように温泉までにかかる橋を渡る。
やっぱり夜とは違う。
何と言うか霊気みたいな妖しさがなく魔法が解けた感じだった。

2回目の熊の湯。
写真はムリを言って撮らせてもらった。
フルチンで写真を撮ったのは初めてだ。
朝はまだあまり人が入っていなくて夜の時よりも尋常じゃないくらい熱かった。
「これはちょっとシャレにならない熱さですね〜」
「じゃあ、これでもうちょっと埋めれ」
と地元の漁師らしき人が川からくみ上げているホースを指差して言ってきた。
顔つきはかなり年配のようだが体についている筋肉はまだ現役そのものだ。
この年老いて少したるんではいるが、若い時に動いて作った貯金がまだ残っているような体はいい。
できれば僕も老いたらこうありたいけど、まあムリか。
「いいえ、この熱い風呂に入りにきたんです」
「そっか、遠慮しなくていいんだぞ」
またゆっくりそーっと湯に入っていき体を慣れさせて行く。
今回も時間がかかったが何とか肩まで浸かれた。
だけど熱さにピッタリ挟まれて湯の中で少しも動く事ができない。
やはり夜の熱さよりワンランク上だ。
心無しか心臓の鼓動が速くなる。
「ほお〜、よく入ったな〜」
別の地元の男が言う。
「だけど俺たちはあと2度くらい上ので入る時もあるんだぞ」
「それはどれだけ熱いんですか?」
「骨まで染みる熱さだ」
「皮膚も固くなるからな」
「それは熊もやけどするでしょうね」
この返しの反応はイマイチだった。
それでも水を足してくれて、Kさんもあとからうめき声を上げながら入ってきた。
「この熱さが熊の湯よ〜」
とガバっと湯から上がった背中の広い漁師は全身が真っ赤だった。
この熱さは絶対体にいいとは思えない。
それでもクセになってしまうんだろう。
僕も車で30分くらい離れた所に住んでいたら毎日来てしまうかもしれない。
早朝の熊の湯もまた良かった。
何時間でもここに入れる。
熱くなったら湯から出て、寒くなったら湯に入ればいい。
だけど他のキャンパー達もきて少し混み出してきたので、Kさんと僕は昨晩よりは早めに切り上げた。

テントに戻ってきてからはお互い会話が少なくなった。
何となく次の行動に考えを巡らせているうちに予定で頭がパンパンになったのかも知れない。
キャンプは道具、行動一つ一つに気を配らなければならないからやる事がいっぱいある。
9月の後半だが少しだけ紅葉も始まっている。
今日も晴れ渡っていて不自由な事はなさそうだ。
炊事場に行って歯磨きついでにコッヘルやら調理具を洗う。
金網のタワシでこすればどんなコゲも落とせる事がわかった。
それでもキチンとキレイにするにはそれなりに時間がかかる。
その後はまずたき火台を片付け、テント内の銀マット、寝袋、などもろもろを片付ける。
テントのペグを外し土をキレイにとる。
テントの骨組みを解体。
夜露で少し濡れているので日の当る草むらに出して乾かす。
タープをも解体。
全ての物を袋などにしまい終わったら、落ちているゴミを拾って来た時と同じ状態にする。
途中休んだりもしてダラダラとではあるが、全部の後片付けが終わるのは1時間ちょいくらいかかる。
Kさんとはラインの交換をして、写真を撮らせてもらった。
「後から似顔絵でも送らせていただきます」
「そうですか〜、なんか照れくさいな〜」
「次はどこへ行かれるんですか?」
「開陽台です」
「ああ、奥さんがアウトドアを嫌いになった場所ですね」
「ははは、そうです」
開陽台はキャンプ場としては魅力のない所だ。
だから初めに連れて行ったキャンプ場が間違っていたと少し思う。
でもそこにあえて行くというのは思い出を辿っているんだろう。
僕も将来またこのキャンプ場に来るかもしれない。
荷物は一回で運べないないので2回往復して車に運んだ。
最後の荷物を持った時、まだテントを畳んでいたKさんに軽く挨拶をして別れた。
駐車場に戻ると半乞食のおっさんはまだいた。
確かにここになら風呂もタダだしずっと居れるな。
だけどそのうち今朝の屈強な漁師たちに煙たがられるだろう。
全て荷物を車に積んでエンジンをかけた時、終わったと思った。
本当に来てよかった。
期待以上にいい旅行になっている感じがした。
さあ、つぎは然別湖だ。
iPhoneでナビを設定して車を出した。
駐車場を出よとした最後にバイクの横にいたライダースーツのKさんを見つけた。
お互いすぐに気づいて頭を下げた。
バイクにはやっぱり他の人と比べて明らかに荷物が多かった。
天気は昨日より少し雲が多かったがおおむね晴れていた。
続きます。
0 件のコメント:
コメントを投稿