2015年10月13日火曜日

3泊4日道東巡り 11

キャンプ場から出るには草むらでほとんど隠れている土に木枠を埋め込んだ階段を降りなければならない。
木は老朽化が進んで急な角度と合わさってかなり危ない。

「でも、温泉に入ったあとテントで寝るのって湯冷めしそうですね」
「いやいや大丈夫、ここの風呂に入ると芯まで温まって汗がどんどん出てくるから朝まで温かいよ」



道路に出ると、昼間あれだけ賑わっていた駐車場が車1台だけになっていた。
時間は大体10時くらいだったと思う。
その駐車場から川に橋がかかっていてた。
ゴウゴウと眼下では荒々しい川が流れていて、地獄の入り口を通っているかのような気持ちになった。




















管理人がいない施設と言う事だけでも色々と身構えていまうのは何とも情けない。
お金を払ってサービスや保障を受ける世界にしかいないから仕方が無いが、この橋を渡っていると色々と大事な事を知らずに損をしてきたのではないかと言う気持ちになる。

橋を渡り終えると女湯という看板が見えた。

「昔は女湯なんてなかったんだよね」
「そうでしょうね」
「女湯が出来た頃はみんなそっちの薮の方から覗いて問題になったみたいだよ」
「ええ〜?ここを?危なー!」

女湯の左側の薮はほとんど崖になっていた。
いくら海綿体を充血しても対価に合わない。

奥の方に開けたスペースがあり男湯があった。
地元の人がボランティアで掃除しているのでおおむね清潔だ。
せまい脱衣所があり、カゴとか桶とかも常備されている。
もっとワイルドなずさんな所かと思っていたので驚いたと同時に、野性味に欠けてちょっとがっかりした。

湯船に行くと黒々とした大きい岩が無造作に重なり合い、そこに川から押し上げている水がホースからドボドボと流れている。

先に3人ほど入っていたので、少し遠慮がちにお湯を桶で汲み、体を洗う。
そしていざ足を湯船に付けると、熱い!

とんでもなく熱い!

Kさんは熱くてムリだとしばらく桶でお湯を汲んで体にかけていた。
でも僕は熱い風呂が好きだ。
とくにこんなワイルドな風呂の熱さは嬉しい。
最近の銭湯はお年寄りに配慮してぬるい所ばかりだから面白くない。
自己責任で入る無料の露天風呂だからできる熱さだ。

少しずつ我慢して足から体へとお湯からの激痛に慣れさせていく。
ゆっくりゆっくり。
肩まで入ってしまうともう大丈夫だった。

最高だ。






今までこんな気持ちのいい温泉に入った事がない。
全てがパーフェクト。

空は満天の星が並び、川の勢い良く流れる音が下から聞こえる。
目の前は湯気で視界がおぼろだ。

地味なしびれのような熱さが爪の先を少しずつ支配する。
なんで昔網走に住んでいた時来なかったんだろう。

僕が入ったのを見てKさんも恐る恐る入ってきた。

「あっ〜〜〜!あっつー!!」
声を出しながら何とか肩まで浸かった。
昔の面影も無く贅肉で固められた肉体から悲鳴があがった。

「あっついですけどいいですね〜」
「あっ!しまったウイスキーもってくるの忘れた!」
「あ、それもいいですね〜」

そうか、さすが無料の露天風呂、そんな事もできるのか!





「それはダメだよ」





目の前のおじさんが言ってきた。

「地元の人に見つかったら怒られるよ」
「ははは、そうですよね、、」

ちょっとはしゃぎ過ぎた中年二人のテンションが下がった。
きっとおじさんは地元の人だろう。

「でも昔は知らない奴らでウイスキーの瓶がグルーっと回ってきたんですよ」
「へ〜、それはいい光景ですね」
「でもこの熱さでアルコールなんてすぐ吹っ飛んだよ」

でも酒で酔って怪我されたり、最悪は崖から転落とかされたら地元の人が使えなくなるな。
こうやって内地の奴らは好き勝手やっていたのだろう。
そこらへんは僕も急に地元の人の気持ちがわかる。
子供の頃から「はしゃぐんじゃないよ」と猛スピードで駆け抜けるライダーを見て思っていた。

Kさんから石けんとシャンプーを借りて体と頭を洗う。
思えば昨日は風呂に入ってなかったので、洗うという事がすごく気持ちよかった。

その後何度か出ては入り、出ては入りを繰り返した。
温泉から出てからも脱衣所で汗が全然引かないからしばらくシャツを着れなかった。

「パンツがすごく濡れているよ」

と脱衣所で休憩しているおじさんに言われた。

「ええ、もうずっと汗が出るんでテントで履き替えます」

この汗の出方は100%温泉のものだ。
確かにこれは朝まで寒くないかも知れない。

帰り道、川にかかる橋を渡りながら眼下に流れる川と月の明かりを見ると、現実の事とは思えなかった。



月がやけに明るかった。
まるでおとぎ話の中にいるようだ。


確かに聖地かもしれない。



続きます。








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