僕が入り口に近い場所にテントを張ったというのもあるが、いずれにせよバイクで後からきた奴はエンジンはすぐ止めなくてはマナー違反だ。
ぶん投げの管理人がいない無料の野営場なのでライトをつけないと真っ暗でわからないのだろう。
さっきはジムニー男がきて少し心強く思ったが、もうこれ以上は迷惑な感じになっていた。
そんな事をブツブツ思っているともう1台バイクがやってきた。
2台が僕のテントの真横でブルンブルンやるんでレースのスタート地点にテントを張っているこっちが悪い様な気にもなってきた。
「どうします?」
「ああ〜、、奥空いてる?」
「ちょっと、僕見てきます」
「ああ、すまんね」
一人がエンジンを止めてバイクから降りて奥に歩いて行った。
待たされたもう一人はしばらくエンジンをブルンブルン鳴らせてボーっと動かなかった。
とりあえずこの濃霧と暗闇を走ってきて疲れたんだろう。
でも落ち着いたのか、それとも僕のテントに気づいたのかエンジンをようやく切ってくれた。
「ダメですね〜、何かキャンピングカーが停まっていて場所がなさそうです」
「そっか〜、いやもうここでいいだろう」
「そうですね、ここにしましょう」
えっ?ここ?
あれ?ここら辺はもう草の面積がないはず、、。
ここはキャンプ場と言っておきながら草むらステージは本当にわずかしかない。
カンカン!
あっ、うち始めた!
カンカン!
カンカン!
カンカン!カンカン!
そこはもう完全に砂利が土にめり込んでほぼ石みたいな所だから無理だろう、、。
カンカン!
カンカン!
「ああ〜刺さんね〜」
「そうですね〜」
そうそう、もう絶対に刺さらないんだから違うキャンプ場に行け、、。
「そうだ、さっき鹿にぶつかりそうだったよな」
「あはは!そう!めっちゃビビリましたよ!」
「いや〜マジ間一髪!」
「あそこでコケたらどうなっていたかわかりませんね!」
「あはは!俺もその後必死でかわしたけど、マジびっくりしたわ!」
いやいや、僕だったらテントがちゃんと建てれるか決着ついていない段階でそんな陽気な会話はできないだろう。
と言っても、照明もほとんどないふきっさらしの岸壁の暗闇はふいをついて心の隅にぐいぐい入ってくる。
会話でもしないとやってられないかも知れん。
確かに今の会話で気持ちが楽になったのか、再びペグを打ち込む作業にも勢いが増した。
カンカン!
カンカンカンカン!
カンカンカンカンカン!
カンカンカンカンカンカン!
それとも、さっきの鹿とぶつかりそうになって助かった記憶の方が強烈で、こんなテントが建つかどうかの問題なんて気にならないのかもしれない。
しばらく波の音と金属のぶつかり合う音を交互に聞いていた。
そしてやはりその音も慣れてきて気にならなくなってきた。
さっきも思ったけど、やっぱりすぐ近くに人間がいる安心感の方がだんだん心地よくなってきた。
耳元で小さくiPhoneの音楽を聞きながらいつの間にか寝ていた。
カンカン!
カンカンカンカン!
カンカンカンカンカン!
カンカンカンカンカンカン!
彼らがいつテントを建て終えて、いつ寝に入ったのかはわからない。
続きます。