続きです。
角田さんの話の中で驚いたのが、若い頃よく一人旅に海外へ行っていたと言うことと、フルマラソンを4時間くらいで走れるくらいになった、ということです。
生粋のインドアな文学少女でありながらも、積極的な行動力と継続力があるのだから、元々只者ではない。
その秘訣見たいなものも、わかりやく話していて、すごく得るものがありました。
そしてまたフルマラソン走れるのか〜と、いつもの勝者に対して、5キロで悲鳴を上げている自分が情けなくなるのです。
それと、職業は小説家になるしか思っておらず、高校の頃から一貫して小説家で食べていけるにはどうしたらいいかを考えてきたそうです。
本当にプロの文を書く人って感じで、あらゆるジャンルをそつなくこなしてしまうし、話の組み立て方が恐ろしく速そうなのは、読んでいてわかる気がします。
角田さんなりの小説の書き方なんて本を出してくれたらいいのにな。
このイベントで一番感じたことは、文章とかで読んだり、テレビなんかで見るのと違い、やっぱり生の本人がすぐそこで話しているというのは、内容の伝わり方が格段に違うということです。
真っ暗なホールの中で、話を聞く以外にすることがないと言うのもありますが、微妙な息遣いやアクセントなどで、自分が体験したかのように理解できます。
で、結局タイトルの「本は今を生きる力」というテーマは、どんな話でも合わせられるように、あまり関係がなかったようです。
対話相手の賢そうなおっさんも良かったです。
トークイベントが終わると、本を買ってくれた人にサイン会が行われると言うので、もっと角田光代を近くで見たいがために参加することにした。
ハードカバー2冊と文庫本が何冊かあったが、文庫本にサインしてもらうのはいかがなものかと思い、ハードカバーの1冊を購入した。
千いくらだろうと千円札と小銭を用意していたら、販売のスタッフに2,300円と言われて、「え? 高っ!しまった!」と思ってしまった。
でも、もう出した手を引っ込めるのは恥ずかしいので、動揺を隠して購入した。
ちなみに買った本は「拳の先」という本で、どうも以前書かれた話の続編って感じだったから、前の話も知らないし、、さらに失敗したと思ってしまった。
周りを見たら僕以外だれも「拳の先」を持っていなかった。
みんなもう一つのハードカバーである1,700円の「坂の途中の家」を買っていた。
「拳の先」の装丁や絵のほうがかなり良かったので、完全にジャケ買いだったが、もっと周りを見るべきだった。
目の前のしけた感じの男が、何の迷いもなく文庫本を購入して、サインの整理券をゲットしていた。
しかも代表作の「対岸の彼女」だったので、それを読んでいないのは失礼なんじゃないかと思った。
あるいは読んではいるものの、この小説にサインをしてほしかったのか。
まあ、どう見てもそんな感じではなかった。
僕が本を購入したら43番の整理券だった。
ほどなくして、サインしてもらえる人の数が締め切られた。
のんきに本を購入していたが、50人までだったようで、危ない、危ない。
イベント後に会場を出るのが少し早かったのもあるので、ここはツイていた。
そう思うと、元々タダでトークを聞けたのだし、本はもらえるし、サインもしてもらえるし、なにより角田光代を近くで見れると思えば、2,300円など大した金額ではないと確信できるようになった。
どうやら写真は撮っていいらしく、みんな遠巻きに写真を撮っていた。
遠慮がちにみんな写真を撮っていたのに、文庫本を購入したさきほどのしけた男が、スタッフにガラケー渡してガッチリとツーショットを撮ってもらっていた。

写真を撮られる瞬間、キリっと顔を引き締めた。
しけたパーツが中央に少し集まった。
だけど、少しいいな〜、と思った。
僕は変に緊張してきて、さすがにそこまでしてもらう勇気がなかった。
かなり待たされたが、とうとう僕の番になり、角田さんが「ありがとうございます」と目を見て言ってくれた。
人気作家なのに、どこかおどおどしていて、逆に緊張しているようにすら見えた。
ただ、小さく「あ、はい、、」と言って、うなずいただけになってしまった。
「頑張ってください」という言葉でも言えば良かったのだが、考えてみたら、普段から「頑張って」と思ったことがない。
何冊か読んだ程度の読者だし、ただ知っている本物の作家に会いたいから来ただけという、軽めのファンだと完全に気づかされた。
だから素直な言葉がいざという時に出てこない。
もっと言えば、頑張っている人に頑張ってと言える立場でもない。
ただ、僕は1,700円、ましてや文庫本なのではなく、2,300円の本を購入していた。
2,300円は1,700円のファンと比べて600円も差がある。
思えば、ハードカバーの本なんて、5年くらい手付かずで1行も読んでいないマルカム・ラウリーしか持っていない。
だからハードカバーの本を購入する作家、というハードルの高さから言えば、僕はもうりっぱな角田光代のファンと公言してもいいだろう。
サインをしてもらい、帰りぎわ1〜2秒よく見たが、角田光代さんはすごく親切そうな目をしていて、作家先生という上からの態度はどこからも見られなかった。
謙虚、謙虚、の上にさらに謙虚を重ねたような感じで「私のようなものが〜」というオーラがすごくて、驚いてしまった。
嫌な言い方をすれば、人気作家で、数々の作品が映画化されて、ちょこっとテレビとかにも出ているし、きっとお金もたくさんもっている人が、ここまで低姿勢でいられるのものなのかと思ってしまう。
もちろん、だからこそ成功しているのでしょうけど、面食らったというのが正直な感想です。
会場から出てサイン本をすぐに数ページ読んでみた。
相変わらず、ものすごく読みやすくて、すぐに気持ちが軽くなる。
いろいろ面倒な事があるけど、これはこれでいいのだ的な感じが、きっとそうさせるのだろう。
表紙の裏に書かれた「角田光代」というサインをずっと見ていた。
少し平べったくて、味のある字体だった。
続編の小説なんだろうけど、これはこれでいいのだ。
とりあえず、対岸の彼女の文庫本がしけた感じでヤフオクに出ていないか、毎日チェックしていきたいと思います。
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